第63話:”わかってほしい”と思うほど、伝わらなくなった

大人の 絵本

言葉にしたのに、なぜか伝わらない…

そういうことじゃないんだけどな”と 心の中でつぶやく。

相手は悪くない。

ただ、自分の中にある“本当の気持ち”をどう表現すればいいのかが分からなかった。

誰かに理解されたいと思うほど言葉が空回りしていくのが分かり、自分でも情けなく感じた。

帰り道、会話の内容が頭から離れない…

伝えたい気持ちと、もう諦めようか?との間で、心がずっと揺れている。

あの場面で、もっと違う言い方ができなかったのか? 自分自身に自問自答をしていると、気がつけばもう夜になっていて、誰にも聞いてもらえないまま思考だけがぐるぐる回っていた。

肌寒く感じる秋の夜空が、胸の中を少しづつ冷やしては締めつける。

数日後、また同じような場面。「違うんだ」と説明しようとしたけれど、相手は少し困ったように苦笑い。

その笑顔を見た瞬間、言葉が喉の奥で止まる。これ以上話しても意味がない・伝わらないかも…

そんな気持ちが大きくなり何も言えなくなった。分かってほしかった … それだけなのに。

その想いとは裏腹に距離を作っていくことが、切なくて、辛く感じた。

それから何日かが経ち、ふとしたきっかけで相手が僕の体調を気づかうようなメッセージをくれた。

何も説明していないのに、ちゃんと気づいてくれていたことが嬉しかった。

言葉じゃなくても伝わることがある

無理にわかってもらおうとしなくても、どこかで想いは届いているのかもしれない。そのことに気づいたとき、胸の奥の張り詰めた気持ちが、だんだんと緩みだした。

夜、湯船に浸かりながら目を閉じ、お湯の音とともに今日の出来事がゆっくりと溶けていくように感じる。

伝わらないこともある。だけど、それでいい。

誰かを理解したいと思うように、いつか自分の気持ちも、遅かれ早かれきっと誰かに届く日がくる。そう思えたら心に少し余白ができ、軽い気持ちになった。

湯気の向こうで静かに灯る明かりが、今日を生きた僕をやさしく包んでくれているかのように感じ、ゆっくりとお風呂に身を委ねた。

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