第53話:心を片づける、小さな午後“自分と向き合う時間”

大人の 絵本

気づけば、心の中にいろんなものが溜まっていた。やらなければいけないことに追われて、見ないふりをしてきた感情や思い出。向き合う時間も、向き合う余裕もなかったのかもしれない。

でも、今日は少しだけ向き合ってみようと思った。何か特別な理由があったわけじゃない。ただ、このままじゃ息苦しい気がした。

引き出しを開けると、色々とぐちゃぐちゃに積み上がったものが目に入る。古い書類、メモ帳、もらったまま仕舞い込んだ贈り物。忙しいときにとりあえず押し込んだものばかりだ。

どれも大事だったはずなのに、今の僕には必要かどうかわからなくなっていた。ひとつひとつ手に取ってみると、ずいぶん前の自分が透けて見える気がした。

全部を持っていくことはできない。そう思いながら、残すものと手放すものを分けていくもったいない気持ちもどこかで終わらせないといけない

心の中もきっと同じで、抱えすぎると動けなくなる。もう要らないと決めたものを袋に入れると、無意識にため息がこぼれた。

引き出しがほとんど空になったとき、不安が胸に浮かんだ。何もないことが、寂しいような気がした。でも、しばらく見つめているうちに、空っぽの空間が静かに落ち着きをくれるのを感じた。

無理に詰め込まなくてもいい。余白は悪いことじゃない。それだけで少し気が楽になった。

片づいた部屋に座っていると、光の入り方まで違って見えた。何もしていないのに、ずっと背負っていた荷物を降ろしたみたいだった。今日は特別なことはせず、ただ心を整理し少し休んだ。

それだけで十分とそう思えた午後で、きれいになった引き出しを見つめながら、心の中にも同じ余白ができた気がした。

これまで気づかないふりをしてきた気持ちや、どこかで置き去りにしていた想いも、そっと並べて必要なものだけを残す。片づけることで、過去と今を区切ることができる。また新しい気持ちで歩き出せるように、時折は、こうして自分にやさしくしてあげる日があっても良いと感じた、そんな小さな午後の時間。

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