第50話:これは僕の人生じゃなかった

大人の 絵本

満員電車に押し込まれながら、ため息をつき、今日も会社へ向かうだけの朝。心は重く、足は前に出ない。この仕事が好きかと聞かれたら、答えは決まっている。

でも、家族の生活がかかっている。やるしかないと、そう自分に言い聞かせてきた。でも、心のどこかで小さな声が響いていた。「本当はどうしたい?」って。

会議室で響く、上司の一方的な言葉。理不尽だと思っても、言い返す気力もない。昔の僕なら、納得できないことには声を上げていた。でも今は、「父親なんだから」と言い聞かせて黙る。

心に浮かぶのは、寝顔の子供と、妻の笑顔が僕を動かしてくれている。でも、いつか本当の笑顔で「今日、楽しかった」って言いたい。そんな気持ちも、確かにそこにはあった。

同僚の笑い声を遠くに聞きながら、ひとりコンビニ弁当を食べる。机の上に置かれたスマホには、突然保育園からの連絡。

「お昼寝中に熱が出ました」心配だけど、すぐに帰れるはずもない。「帰りたい理由が、どれだけ尊くても、ここでは通用しない」その現実が、胸に重くのしかかる。

でも、子どもの存在が僕にとっての働く大きな原動力の理由なんだ。そう思うと、少しだが心が強くなった気がした。

夜、やっと家に着く頃には、いつも子どもは眠っている。食卓には冷めた夕食と、妻からの「おつかれさま」のメモ。優しさに救われる反面、何も話せない自分が情けなかった。

本当は「つらい」と言いたいが、言えるはずがない。「家族のために」が口癖になって、心が置いてけぼりだった。

でも、ある日アルバムの中の写真を見ていると、ふと気づく。あの日々の中には、確かに笑ってる僕がいた。だから、もう一度笑える日を信じてもいいと思い始めた。

夜中、寝静まった家でひとり目を覚ます。暗闇の中で、心の奥から声がした。

「これは、僕の人生だったのか?」家族は何より大切。でも、自分はどこへ行ったのか?過去を悔やむよりこれからを少しでも変えていこう

明日いきなり何かを変えられなくてもいい。でも、「自分の人生を生きる」って気持ちを持ち直せたことが、もうすでに小さな一歩だ。

その一歩は

きっとどこかに繋ががっている 』

 

タイトルとURLをコピーしました