第46話:”足りない”ばかりに目が向いていた

大人の 絵本

僕はいつも、何かが足りない気がしていた。貯金も、時間も、自信も、まわりと比べるとどこか劣って見えた。

「もっと頑張らなきゃ」「まだ足りない」そんな言葉が、いつの間にか僕の中に根づいていた。

雑誌の特集やテレビの中の“ 理想的な誰か ” を見ては、自分だけが取り残されているような気がしていた。焦りは、静かに、でも確実に僕を締めつけていた。

何かを手に入れても、またすぐ「次は」と思ってしまう。仕事で評価されても、給料が上がっても、心のどこかが埋まらなかった。

もっと稼がなきゃ、もっと時間を有効に使わなきゃ、もっと、もっと…。気づけば僕は、
「足りない前提」で生きていた。だから、何があっても安心できなかったんだと思う。

ある日、移動中に聴いていたオーディオブックの声が耳に残る。「足りないものより、“すでにあるもの”を数えてみて 」落ち着いた語り口なのに、その言葉だけが妙に刺さった。

家に帰って、なんとなく昔の手帳をひらいてみた。そこには、忘れていたはずの感謝の言葉や、嬉しかった出来事がいくつも書き残されていた。

あれ? けっこう”いろいろ持ってんじゃん”
思わず、口ずさんだ。

あたたかいご飯を食べられる日常
気楽に話せる人がそばにいて夜にはちゃんと眠れる場所がある。たくさんじゃないけど、必要なものは意外とそろっている。

それなのに僕は、持っているものには見向きもせず。“ないことばかり数えて、“ある”ことには鈍感だった。でも、それに気づけたことが、” 財産だ”と、そう思った。

恐らく、これからも「もっと」が頭をよぎる日があると思う。だけど今は、そんな自分とも上手につき合っていけそうな気がしてる。

全部がそろってなくても、生きていける。
あるものに目を向けるようになってから、僕は“足りないまま”でも、不思議と満たされていた。

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