久しぶりに訪れた温泉の脱衣所で、ふと鏡に映った自分を見つめた。照明に照らされた肌には、昔のケガの痕がうっすら残っている。もうずいぶん前になるな、そう思った瞬間、胸の奥がうずきだす。
あれは、言葉よりも傷が先に残った時期だった。無理に笑ったり、何もなかったふりなど、誰にも言えずに飲み込んだ感情。心のどこかで、ずっとその傷にふたをして生きてきた。忘れたい 。だけど、忘れれたくても忘れられない,,, 向き合うのが怖い。
でも今日は、鏡に映る自分を逃げずに見ている。何かが変わったのかもしれない。
この傷があるからこそ、誰かの痛みに気づけることもある。『 消えなくていい。ただ、ここにあるままでいい 』そんなふうに思えたのも、時が経ち、つい最近だ。
湯けむりに包まれた浴場で、湯にゆっくりと体を沈める。心も身体も少しずつほぐれていくのがわかった。完璧じゃない自分を、そのまま湯の中に浮かべるように。誰にも見せなくていい。けれど、自分だけは知っていたい。
この身体も、心も、ずっと頑張ってきたことを。
脱衣所に戻ると、タオルでゆっくりと体を拭きながら、心の中でそっとつぶやく。
ありがとう
傷あとが消えなくても、それも僕の人生のひとつ。それを受け入れた今日から、止まっていた針が動きだす。『 優しさは、誰かに向けるだけじゃない、まず自分に与え、満たされた心を相手に分けよう 』そう思えた日だった。