第5話 : 誰かのために

中途半端 絵本

夕方から降り出す雨が、僕にまとわりつく。
ギターケースを開き指にはりつくも「何のために、自分は歌っているんだろう」降りしきる雨音、道を急いで通る人、足を止める者などいなかった。

演奏をやめ、雨空を見上げる。
そんな僕をよそに、人々は何も気にせず横を通り過ぎる。

誰も聴いていないのに、僕はどんな気持ちで歌えばいいんだよ 」雨に濡れたギターケースを見つめる。

濡れた指先がかすかに動くが「 もうやめよう 」そんな言葉が頭の中によぎる。

いつも歌ってるよね

突然通りすがりの人に声をかけられ、雨の中しばらく足を止めていた。
小さな声で「 君の音に、何度も助けられたんだ 」確かな声だった。

通り過ぎるだけだと思ってた人から、初めて聞いた言葉だった。自分の歌が誰かに届いていた。

雨が止む気配はないが、「 続けてよかった 」こんな気持ちが自分の中に湧いてくる。

今日の雨は冷たく感じない、汚れたギターをしまいながら通りすがりの人のことを思う,,,

救われたのは、僕の方だよ、ありがとう 

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