第62話:ひとりの時間がないと、僕は僕でいられない

大人の 絵本

仕事、同僚との雑談や友人との集まり、一日中誰かと一緒にいることが当たり前に感じる日常。

つくり笑顔や気を使う会話が多い中、心の奥では「また今日も自分を隠してる」と小さくため息をついていた。

人と関わることは決して嫌いじゃない。むしろ、学びや支えられることも多い。けれど、ずっと続くと息が詰まるような感覚が時々ある。

夜、最寄り駅を出たとき、まっすぐ帰る気になれず、人混みを避けコンビニの明かりを横目に見ながら静かな路地へと足を向ける。

少しだけ、ひとりになりたい” 心の声がそう言っていた。

誰かに理解されたいわけでもなく、相談したいわけでもない。ただ、今のままじゃ自分を見失いそうで、どこかで立ち止まる必要があった。

小さな公園にたどり着きベンチに腰を下ろす。スマホを取り出しても、通知に触れる気にはなれなかった。画面を伏せてポケットに戻し、ただ夜の空気を深く吸い込んだ。

街灯の下、聞こえるのは風の音と自分の呼吸音。それだけで、少しずつ心のざわつきが落ち着いていくのを感じた。

誰にも見られない時間、邪魔されない空間。それが今の僕には必要だった。

子どものころ、放課後にひとりで空を見上げていた時間を思い出す。グラウンドに残るボールや、夕焼けの色が変わっていくのをただ黙って眺めていたあの頃。

誰とも話さなくても、そこには確かに「僕の世界」があった。大人になるにつれ、誰かと一緒にいることが増え優先し、忘れてしまっていた“当時の気持ち

でも、本当は今もあの感覚を必要としていたんだ。誰かと過ごすことも大切。けれど、それ以上に“僕に戻れる時間”が欠かせない。

しばらくベンチに座ったあと、深く息を吐いて立ち上がった。

ひとりの時間があるから僕はまた誰かと向き合える」そう気づくと、心が軽くなる。

公園に来る前と、帰りの景色が違うように感じた。視野が … 広い,,,  顔を上げ歩きだす。

よし、また明日も人と関わろう。

自分を見失わずに” そう自分に語りかけ、夏の終わりを感じる夜風の公園を後にした。

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