第54話:変わらないものがあってよかった

大人の 絵本

気づけば、周りの景色はずいぶん変わっていた。新しい街に引っ越し、職場も変わった。
一緒に笑っていた人たちは、今は別々の道を歩いている。

気づかないふりをしていたけれど、本当はずっと心は不安だった。変わらないものなんて、この先もないんじゃないかと思っていた。

自分だけが同じ場所に立ち止まっている気がする。周りはどんどん先に進んでいくのに、僕は何をしているんだろうと考える夜が度々訪れた。

年齢だけは大人になったけれど心はうまく追いついていない気がする。それでも何も変えられなくて、焦りばかりが大きくなっていった。

心のどこかで、ずっと変わらない何かを探していた。何があれば安心できるのかも分からないまま、ただ立ち尽くしていた。

そんな帰り道、何気なく顔を見上げると、ずっとそこにあった街路樹が目に入る。春には若葉をつけ、夏には濃い影を落とし、秋には葉を散らせる。季節は巡っても、同じ場所に立ち続けるその姿が、今日は少し違って見えた。

何も変わらないものなんてないと思っていたけれど、本当はずっとここにあったんだ
それだけで、胸の奥が熱くなるのを実感。

変わらないものがひとつあるだけで、変わり続けることも怖くなくなる気がした。

景色が変わり、人が変わっても、ずっとそこにいてくれるものがある。当たり前のように思っていたけれど、それはとても特別なことだと思った。揺るがないものがあると人はこんなにも安心できるんだ。そんな小さな発見が、今日はやけに心にしみた。

歩く速さは人それぞれでいいんだと思えた。変わっていくことと変わらないものはきっと両方必要なんだ

街路樹を見上げて深呼吸をしたら、また少し歩いてみようと思えた。気づけばもう、年齢だけはそれなりに大人で、心はまだ追いついていない気がするが、それでもいいんだと思えた。

変わらないものがあることで、少しだけ自分を許せる気がした。これから先、何が変わっていっても、この気持ちはずっと大事にしていたい。また同じ道を通るとき、この景色を思い出しては、少しだけ優しい気持ちになり、前に進める気がした。

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